登山の知識&ヒヤリハット
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ヒヤリハットで疑似体験

白高地沢を渡渉後、雨による大増水で進退極まる

2018年1月18日印刷
発生日 2012年08月12日
体験者名 2017年Y030
登山地域 朝日岳
登山概要

■パーティ人数:1人
■山行スタイル:個人山行
■宿泊:山小屋
■登山内容:縦走
■天気:台風が接近しており、少雨から大雨になった。

ヒヤリハットタイプ

■解決種別:自力下山
■登山計画時にそのリスクに対する検討を行ったか:しなかった
■行動中にリスク回避や軽減が行えたか:した

ヒヤリハット本文

台風が接近していた中、朝、バスで蓮華温泉まで行き、少雨の中を兵馬の平、五輪尾根を通って朝日岳へと向かう。白高地沢を何の危険も感ぜず渡渉したが、五輪尾根を登る頃から、雨と風が強くなって来た。尾根では台風による強風が吹き、立って歩くことができなくなり、ここで初めて危険を感じて撤退を決意。ところが、下山していたら下りの登山道が沢に変わり樹林帯では小滝になってしまった。もう少しで白高地沢というあたりで、轟々という水の流れる音を聞き、事の重大性を予感する。渡渉地点に戻ったとき、眼前の光景を見て愕然とした。幅10m程度の完全な川になっていて濁流が渦を巻いて流れていた。引き返しても五輪尾根の強風を歩き通す自信はない。来るときに見た岩屋で待機を、と思ったが、岩屋は水没していた。とにかく雨がすごくて雨具があっても身体が冷えてくる。どこか避難場所はないかと探してもない。対岸には橋の工事の小屋があるのに…。結局、渡渉するには来たところを渡るしかないことが分かって、「必ず生きて家に帰る。」と固く決心して、生木で棒を作り、川底の石の間に、その棒を差し込み確保しては前進、確保しては前進をゆっくりと繰り返した。水は腰まで来て下半身は完全に水の中でずぶ濡れである。もし、流されたら、そのまま留まることなく滝壺へ落ち、やがて日本海まで流れて行く。そんな恐怖心と闘いながら慎重に慎重に必死の思いで渡って行った。向こう岸にたどり着いて岸に上がった途端、無理をしていた足にこむら返りが起き、しばらく動きが取れなかったが、とりあえず助かった。来るときは川原の登山道だったが、もはや川の中なので、土手を這い上がって灌木の中を抜けて行った。やっと、林の中の登山道に出たが、そこからでも沢に出会うと小滝となっていて、水と闘いながら帰って行った。また、兵馬の平は湿原ではなく広大な池と化していて、唖然としたが、水深30cmくらいで何とか木道が見えたので、これまた慎重に足ずさりしながら歩いていった。自分が池のど真ん中にいる状況は、精神的にすごいストレスになり、ついよろけて池の中に倒れて流されて行きそうな恐怖心に襲われたりした。やっとの思いで蓮華温泉に着いて湯に浸かってほっとした一日だった。山では水がいちばん怖いと思った貴重な体験だった。その翌年、白高地沢の橋は完成、3年後、リベンジを果たした。

要因分析
装備や外的要因の分析(3×3要因分析表)
装備
ビバークの用意なし
コース
初めてのコースだった。沢や湿原への注意が不足だった。
山の状況
尾根での台風を甘く見ていた
装備
コース
山の状況
雨天の行動は好きではないが、北アルプスでは毎回のように出会う気象なので慣れていた。
装備
コース
山の状況
登山者自身の内的要因分析(技術、知識、体力、経験等)3×5登山者分析表
楽観的・希望的な解釈
調査・観測結果に基づくリスク対策行動
安全最重視の行動
沢での増水の経験なし
リスク低減行動の継続的実践
その他
楽観的・希望的な解釈
調査・観測結果に基づくリスク対策行動
安全最重視の行動
体力・気力は十分だった。
リスク低減行動の継続的実践
その他
楽観的・希望的な解釈
調査・観測結果に基づくリスク対策行動
安全最重視の行動
リスク低減行動の継続的実践
その他
対策

数年後、小池新道を通って鏡平まで行き、一泊、夜中から雨になり、翌朝、下山することにした。秩父沢が不安だった。登って来る者が誰もいなかったので、余計に不安になった。まあ、最悪の場合、また鏡平まで戻ることにしていた。ところがその手前の秩父子沢が大変なことになっていた。登るときは涸れ沢だったのが、急流となって水が流れ落ちていた。水深はそれほどあるとは思えなかったが、水の勢いが凄くて水しぶきがどうどうと上がっていて、ビビってしまった。ただ、岸辺でこの状況をどうしたものかと途方に暮れている数名がいたので、声をかけて、いっしょに大きな石を次から次へと数mの流れの中へ落としていって、足がかりを作ってみんなで無事に渡った。秩父本沢の橋は無事だった。下山途中に出会った登りの人には状況を話して引き返してもらった。さらに、わさび平の小屋の人にも、雨が降っている間は登らせないようにと言い、また鏡平小屋へ秩父子沢の様子を電話で知らせてもらった。一度ひどい目に会っていると、用心もするし、知恵も回るようになるものだ。

学びの場

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