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ヒヤリハットで疑似体験

トムラウシ山で大量遭難発生

2018年1月17日印刷
発生日 2009年07月16日
体験者名 2017年Y017
登山地域 旭岳~白雲岳
登山概要

■パーティ人数:1人
■山行スタイル:個人山行
■宿泊:テント泊
■登山内容:縦走
■天気:暴風雨

ヒヤリハットタイプ

■解決種別:自力下山
■登山計画時にそのリスクに対する検討を行ったか:少しした
■行動中にリスク回避や軽減が行えたか:少しした

ヒヤリハット本文

行動概要
7/16(木)
(移動)台地林道登山口5:30~バイク~6:45旭岳ロープウェイ駅(強風のため一時運休)8:00~ロープウェイ~8:10姿見駅
(登山)姿見駅8:20→9:407合目付近(強風のため一時下山) →10:10旭岳石室11:00→12:50旭岳→14:30北海岳→15:40 白雲岳避難小屋(泊)

7/17(金)
白雲岳避難小屋 5:30→高根ケ原分岐6:45→9:00忠別沼9:10→12:15五色岳12:25→13:00神遊びの庭13:30-17:30南沼幕営地(泊)

7/18(土)
南沼幕営地5:15(トムラウシ山往復5:35/5:50)6:20発→8:05 三川台8:15 → 9:00兜岩下 →10:15 扇沼山10:25 → 12:00台地林道登山口

(はじめに)
 私は,大学生の頃から約30年間,登山を趣味として様々な山域を歩いてきましたが,この大雪山縦走で初めて,「遭難するかもしれない」という恐怖を感じました。
 かつて経験したことの無いほどの暴風雨の中,無謀にも,旭岳から白雲岳避難小屋へと歩いた2009年7月16日,トムラウシ山では,ツアー登山者など9人が,低体温症で亡くなるという大惨事が発生したのです。
 結果として,私自身は,無事に避難小屋にたどり着き,予定どおりのコースを縦走できたわけですが,一歩間違えば,遭難していたかもしれないという状況に置かれていました。
 トムラウシ山で亡くなられた方々のご冥福をお祈りするとともに,自らの行動を反省しつつ,そのときの状況について,報告させていただきます。

(経緯)
 この年は,5日間の長期勤続休暇が取得できる年だったので,以前から考えていた北海道の山々を歩くことにしました。7月10日夕方,大洗港発のフェリーで出発し,19日夜に戻る計画で,北海道での滞在期間は8日間。幌尻岳,十勝岳,大雪山縦走,そして余裕があれば利尻岳も,という欲張りな計画でした。一日おきに雨が降る天候のため,利尻岳は登れませんでしたが,それ以外は予定どおり歩くことができました。
 しかしながら,大雪山縦走中に,トムラウシ山の大量遭難が発生し,職場の関係者の皆様には大変ご心配をおかけしました。天候が回復するという予報が出ていたとはいえ,あれほどの暴風の中,登山を続けたことは,大いに反省をしなくてはなりません。そのときの状況について報告することで,少しでも皆さんの参考となることを願います。

【7/16(木)】 暴風雨の中,ロープウェイ姿見駅~旭岳~白雲岳避難小屋(泊)
・ 十勝岳に登った翌日15日(水)も雨のため,登山はできませんでした。残る滞在期間は3日間となり,大雪山縦走にするか,利尻岳に登るか迷いました。
・ 十勝・旭川方面は16日まで雨は残るものの,その後天気は回復し,17~18日は晴れ間が期待できるという予報だったので,初日は雨でも頑張って行こうと覚悟を決め,16日~18日の2泊3日で大雪山縦走をすることにしました。

・ ところが,16日に旭岳ロープウェイ駅に着くと,強風のため運行中止。朝8時にようやく動き始めました。姿見駅から歩き始めると,雨量は少ないものの,かなりの強風。とにかく行けるところまで行こうと登りましたが,7合目を過ぎて標高2千メートル付近になると,風はますます強まり,まともに歩けないほど。これでは危険と判断し,風が収まるまで様子を見ることにし,一旦,避難小屋(旭岳石室)まで下りました。

・ おにぎりやサンドウィッチを食べながら1時間ほど小屋で様子を見ていると,風が弱まってきました。雨も大したことはありません。そこで,午前11時,避難小屋を出発し,再度山頂を目指します。まだ風は強いものの,さきほどよりは弱まっていたので,2時間弱で山頂に到着しましたが,山頂ではさすがにすごい風が吹いていました。しかし,雨量はそれほどでもないので,天気予報どおり,いずれ収まるはずと考えて,裏旭野営地まで下ります。
・ 途中,大きな雪渓を下るのですが,視界が30メートルほどしかなく,雨で先行者の足跡も消えてしまい,本当にこの方向で良いのか,心配になります。周囲には誰もいません。でも,GPSで現在地を確認すると,しっかりと登山道の上を歩いていることがわかり,安心しました。GPSが無かったら,引き返していたかもしれません。

・ さて,裏旭野営地目指して雪渓を下りますが,視界が悪く野営地を通り過ぎてしまったようです。いつの間にか,間宮岳~北海岳の稜線上を歩いていました。実はこの時がもっとも厳しい条件でした。特に北海岳山頂付近は,まともに立っていられないような暴風雨。
・ 同じ日に同じコースを歩いた某山岳出版社のカメラマン氏は「風速35メートルくらいの風だった。」と言っていたほどです。
・ なんとか頑張ってここをやり過ごし,白雲岳避難小屋を目指しますが,徐々に体力が落ちていく感じがしました。手袋をしていても指がこごえて,うまく動きません。ゴアテックスの雨具を着ていても,霧状の雨が中の衣類を濡らします。
・ 途中の岩陰で休憩をとり,ウェストバッグに入れておいたアメ玉を頬張ってエネルギー補給です。ザックを開けて食料を食べるような余裕はありませんでした。場合によっては,この岩陰にテントを張ってビバークか?とも思いましたが,ここでGPSを確認すると,あと1㎞ほどで白雲分岐のところまで来ていることが確認できました。
・ アメ玉とGPSのおかげで,元気が出て,午後3時40分,なんとか白雲岳避難小屋に到着です。小屋に入ってザックをおろした途端,寒さと安堵感で全身が震えました。
・ 小屋の中でも息が白いです。乾いた衣類に着替え,セーター&フリースの上に軽量ダウンジャケットを着込んでなんとか落ち着きました。
・ この晩の小屋は,4組10名の停滞組と悪天候を押して到着した私のような登山者4組7名の合計17名のみでした。
・ この中には,前述の某山岳出版社の3人パーティの姿がありました。先日発売された雑誌にそのときの縦走記録が載っていますが,さすがに詳しい状況は書かれていませんでしたね。
・ その夜は,一晩中強風が吹き荒れましたが,まさか,すぐ近くで大量遭難事故が起きているとは,まったく知りませんでした。

【7/17(金)】 快晴 白雲岳避難小屋~忠別岳~神遊びの庭~南沼キャンプ指定地(幕営)
・ 翌日は朝から素晴らしい天気に恵まれました。朝焼けに染まるトムラウシ山に見入っていると,そちらのほうから,何機ものヘリの飛ぶ音がしています。
・ 小屋に戻って朝食を食べていると,隣の登山者のラジオからトムラウシ山縦走ツアー客が動けなくなっているというニュースが流れてきました。さきほどのヘリの音は,捜索隊のものだったようです。
・ やはり昨日の悪天候で遭難者が出ているのか。停滞組からは,「昨日の天候で行動したら,遭難するのは当たり前だ。あの暴風雨のうえに,小屋の中でさえ,ふるえる寒さだったのだから。」という意見が出ていました。それを聞いて,反省しきりです。

・ しかし,本日は素晴らしい天気。高根ヶ原のたおやかな登山道に咲く高山植物の花々は見事なものでした。
・ 東側には,眼下にたくさんの沼の青と残雪の白,それを取り囲む森の緑のコントラストが美しく,感動的です。石狩岳やニペソツ山も凛々しい姿を見せています。
・ 忠別岳山頂まで来ると,何とか携帯が繋がったので,職場に無事であることを伝え,家人にはメールを入れました。
・ 五色岳を過ぎ,化雲岳山頂付近に来ると,いよいよこのコースのハイライト,可憐な花々が咲き乱れる「神遊びの庭」が広がり,その先にひときわ立派なトムラウシ山が見事でした。
・ ここで写真を撮っていると,昨日からヒサゴ沼避難小屋に滞在していた方が歩いて来たので,遭難のことを聞いてみると,ツアー客8人のほか,単独行1名がトムラウシ山の山頂付近で亡くなったとのこと。
・ 1日我慢して停滞すれば,この素晴らしい好天のもとでトムラウシ山を楽しむことが出来たはずなのに,とても残念な結果となり,言葉もありません。亡くなられた方々のご冥福をお祈り致します。
・ 一歩間違えば,自分も同じようになっていたかもしれない,と思うと,とても他人事とは思えません。
・ なぜこんな結果となってしまったのか,原因究明は捜査を待たねばなりませんが,このような厳しい自然環境のコースにツアーを設定すること自体,正直,疑問です。
・ 登山は本来自己責任ですが,ツアー登山はその自己責任部分があいまいになってしまい,結果として的確な自己判断を妨げるおそれがあるのではないかと思います。
・ 各種の報道など見ても,参加者の一部が停滞を主張しながら,結局はガイドの指示に全員が従って遭難してしまったようです。

・ さて,本日の予定ではヒサゴ沼でテント泊のつもりでしたが,明日の天候は午後から雨の予報。となると,できるだけ距離を稼いでおきたいところです。
・ そこで,ヒサゴ沼には下らずに,そのまま南沼キャンプ指定地まで歩くことにしました。
・ 既に足はガクガクですが,本日の天気ならば,午後6時過ぎに到着しても,テント設営には問題ありません。
・ 天沼付近で,香川から来られた単独行のSさんとお会いしました。私が台地林道に下るというと,一緒に行ってみたいとおっしゃったので,そのあとは行動を共にさせていただきました。
・ トムラウシ山頂は翌日登ることにしてパスし,日本庭園からロックガーデンを登り,北沼からトラバースしてキャンプ指定地には午後5時半に到着しました。
・ 既にテントが3張りありましたが,テン場は十分広く,問題ありません。水も雪渓から豊富に出ています。すぐにテントを設営し,夕食をとって午後7時半には寝ました。
・ このキャンプ指定地でこの日の朝,3名の登山者の遺体が回収されたと知ったのは,下山して北海道新聞の記事を読んだあとでした。

【7/18(土)】 高曇りのち雨 白雲岳避難小屋~トムラウシ山往復~三川台~扇沼山~台地林道登山口 
・ 最終日,18日(土)の朝は曇り空でしたが,風はほとんど無く,遠望もききました。
・ 午前4時に起床し,朝食をとって荷物をまとめたあと,トムラウシ山頂に登りました。
・ 岩だらけの実に豪快な山で,まさに日本百名山にふさわしい風格を感じました。北には旭岳とその周辺の山,南には険しいオプタテシケ山を経て十勝連峰が連なります。実に大きな山脈です。またいつか,今度はよく天候を見極めて再訪したいと思いました。

・ 下山は,三川台から扇沼山を経て美瑛町の台地林道に下る新しいコースです。
・ 実は,林道の登山口にクルマをデポし,積んできたバイクで旭岳温泉に向かう,いつもの「バイク作戦」でした。このおかげで,2泊3日で効率よく大雪縦走を成功させることができました。
・ 扇沼山の登山路は平坦で歩きやすいうえ,南側,十勝連峰の眺めが素晴らしく,お薦めのコースです。
・ ただし,事前に上川中部森林管理署に林道ゲートの鍵を借りる必要がありますので,ご注意下さい。私が下山したときには,ほとんど地元のクルマばかりでした。

要因分析
装備や外的要因の分析(3×3要因分析表)
装備
コース
山の状況
装備
コース
山の状況
状況次第では途中で下山するつもりでいたので、その時点では適切な判断をしていたと思います。
装備
コース
山の状況
登山者自身の内的要因分析(技術、知識、体力、経験等)3×5登山者分析表
楽観的・希望的な解釈
調査・観測結果に基づくリスク対策行動
安全最重視の行動
リスク低減行動の継続的実践
その他
楽観的・希望的な解釈
調査・観測結果に基づくリスク対策行動
安全最重視の行動
リスク低減行動の継続的実践
その他
楽観的・希望的な解釈
調査・観測結果に基づくリスク対策行動
安全最重視の行動
風雨が強かったため、いったん避難小屋で待機したものの、他の登山者の行動に影響されて登山を強行してしまったことが間違いだったと反省しています。
リスク低減行動の継続的実践
その他
対策

とにかく、事前に気象情報を入念にチェックし、少しでも危険があれば、登山を中止しています。

学びの場

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STEP2 省察
装備や外的要因の分析(3×3要因分析表)
装備
雨具、フリースなどレインウェアと防寒着はしっかりと持っていた。
GPSと書いているが、地形図とコンパスは持っていなかったのか。
飴玉の他にも何か行動食はなかったのか。
コース
山の状況
大雪山の稜線は全体的に平らで広い。悪天時には道迷いの危険が多い。
装備
コース
山の状況
装備
防寒用の手袋を着用していない。飴玉だけでは栄養補給は充分でない。ログを取っていない。
コース
裏旭日ではなく北海岳のほうに行っている。
山の状況
風速35メートルなんて普通に歩けないし、まず行動をしない。
登山者自身の内的要因分析(技術、知識、体力、経験等)3×5登山者分析表
楽観的・希望的な解釈
途中下山が選択肢にある。
調査・観測結果に基づくリスク対策行動
ビバークした際の水や食料を予備として持つ。
安全最重視の行動
計画時においての危険箇所の把握はできていたのか。道迷い、強風など。
天気が悪いとわかっているなら無理して動かない。
一人という時点でちょっと怖い。気象遭難もそうだが、ヒグマ対策はしていたのか。
リスク低減行動の継続的実践
日程に余裕を持たせる。地形図・コンパスを持つ。行動食を増やす。
その他
楽観的・希望的な解釈
風が弱まり、回復する予報であった。
調査・観測結果に基づくリスク対策行動
避難小屋を再出発する時間が遅い。他の登山者につられて行くのでなく、自らの判断で行動する。
安全最重視の行動
ロープウェイが動いておらず、暴風雨という最悪の状況の時点でまず動かない。
リスク低減行動の継続的実践
一つの気象情報だけでなく複数の情報を確認した上で判断する。
その他
楽観的・希望的な解釈
調査・観測結果に基づくリスク対策行動
旭岳に登頂した時点で行動をやめ、引き返すべきである。GPSに頼らないでログを取る。暴風雨の中、無理して白雲岳避難小屋まで行ったのは無謀と思える。旭岳から裏旭日までは、たとえ悪天候時でも現在地がわかっていれば、コンパスでログどおりに進めて問題ないはずだ。GPSに頼るからこうなる。
安全最重視の行動
動かない。
リスク低減行動の継続的実践
濡れた衣類は着替える。
その他
STEP3 概念化

■類似した自分の登山経験

キレット避難小屋から五竜山荘へと向かう際、午後から天気が悪化するという情報を知りつつも、天幕可能地が無かったため行動した。
案の定、五竜岳頂上地点では雨と風が強くなり、五竜山荘に到着したのは夜の19時半であった。日が暮れた中での岩場の通過はとても危険であった。

■どのように対応すべきと考えたか

計画の段階で、一人ではなく複数人で行くように努める。地形図とコンパスを持つ。悪天候時には無理して動かない。ビバーク、緊急時用の水と食料を持つ。

■今回の分析で獲得した知識や技術

■今回の分析で得た(気づいた)発想

一人ではどうしても自分の判断だけで行動することが多い。よって周りの意見や情報に惑わされやすい。客観的にまわりを見て、自分ができる範囲内でのリスクマネジメントが必要であると感じた。

STEP4 専門家との意見交換や登山での実践を行った結果

STEP2とSTEP3の内容の振り返り結果

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